クーリングオフ基礎知識紹介
通信販売の発展
昨今、特にインターネットなどの普及により通信販売の需要が高まりを見せています。また、インターネットでなかったとしても、テレビショッピングなどを見ての物品購入なども一定の売上げを維持しております。
これらは業者と直接対面して契約をするわけではない、いわゆる通信販売ですが、このような場合にトラブルが生じたらどうなるのでしょうか。
クーリングオフはできない
まず、原則として通信販売においてはクーリングオフは認められておりません。何故なら通信販売は訪問販売などと異なり、業者が一方的に有利な立場を利用して消費者を困惑させたりするようなものではなく、通信による宣伝などを見て消費者が「これを買ってみようか」という選択をしているからです。消費者は究極的には自発的な意思で契約をしているのであり、そうである以上は特定商取引法が目的としている不意打ち的販売から消費者を保護する、という部分からはかけはなれており、敢えてこうした消費者を保護しなければならない理由はないのではないか、ということになるからです。
通信販売における業者の遵守事項
ただし、通信販売においては業者が一方的に情報を発信するのみであり、例えば消費者は手にとってそれを確認したりすることができないという点においては訪問販売よりも問題になりうる点が存在しているとも言えます。こうした部分に配慮して、特定商取引法においては通信販売における広告に対して一定の規制を加えています。
具体的には以下のことの明示を義務づけ、以下の誇大広告の禁止を規定しています。
a.特定商取引法や政令などで表示が義務づけられるもの。
- 商品やサービスの販売価格(送料別の場合にはそのことも明示しなければならない)
- 代金や対価の支払時期や方法
- 商品やサービスの引渡・履行時期
- 商品や権利移転後における引取りや返還などについての特約について(特約がない場合にもない旨を明示しなければならない)
- 業者の氏名
- 業者が法人である場合には、その代表者や業務責任者の氏名
- 申し込みに有効期限がある場合にはその期限
- 金額や送料以外に消費者に負担すべき部分がある場合にはその旨
- 商品に隠れた瑕疵がある場合などについての規定(民法の原則に従うのなら記載は不要)
- CD-ROMなど一定の機能を必要とする電磁的記録の商品を売買する場合には、それに必要なPCの使用、その他の条件など。例えば必要スペックやメモリなどの記載
- 販売方法に制限(関東ローカルとか、クレジット支払のみ)がある場合にはその旨
b.特定商取引法で禁止されている誇大広告の対象
- 商品やサービスの性質、品質、効能など
空気洗浄器などであれば、どの程度の広さまで洗浄できるのかなどです。 - 引渡し後の引き取りや返還に関しての特約
返品に応じていないのに返品可などと書くことです。 - 商品や権利についての国・官公庁や著名人などの関与
本人がお墨付きを与えたわけでもないのに「○×さん推薦」と書いたり、「環境省公認」とか記載したりすることをいいます。 - 原産地、商標、製造者名
中国製なのに、「本場ペルシアの絨毯」とか記載することなどです。 - その他
ただ、このような誇大広告に反してなされた場合、業者に一定の刑罰や行政処分などが下ることはありますが、契約が有効かどうかについては規定がありません。誇大広告にひっかかって契約してしまった場合には民法などの一般法にたちかえり、判断されることになりますのでその意味では消費者保護としてはまだ十全ではないといえるでしょう。
返品特約について
通信販売の場合には、実際商品が来て手にとってみると、何かイメージと違っていたなんてことがよくあります。
通信販売についてはクーリングオフは認められないわけですが、一方で返品についての特約などがあれば、「ちょっと違うので返品します」とすることができれば消費者にとってはクーリングオフと同様の機能が果たせて便利です。
ただ、返品については「返品には応じません」という特約があればその特約は有効となります。すなわち、通信販売で洋服を買ってみたが実際に手にとってみるとサイズが違ったから返品したい、と思ったとしても「返品には応じません」という風にはっきり表示してあれば返品することはできないということになります。
ただし、そもそも洋服の背中部分が裂けていたりして使い物にならないという場合など、業者がそもそも通常期待されている契約債務を履行しているといえない場合などには民法原理などに基づく解除などができる場合はあるでしょう。
前払いの問題
通信販売において昨今問題となっているのはインターネットなどで購入した際に消費者の側が業者に前払いし、それから業者が発送するといういわゆる前払い式の通信販売です。特定商取引法はこうした前払い式通信販売においては振込みを受けた後に業者が消費者に対して通知をしなければならない義務などを定めてはいますし、また商品の発送がなされなかった場合などには民法に従って解除をして払った代金の返還請求を行うことはできるとはしています。が、現実として通知があったとしても商品の発送がなければ意味がないですし、このような場合で発送をしない業者が解除されたからといって代金返還請求に応じるかは非常に疑わしい部分があります。
実際問題としてネット売買などでトラブルが生じているのはこのような前払いケースであり、代金引換という制度が存在するのであるから、前払いシステムは廃止すべきではないかという意見も存在しています。また、消費者においても代金引換で支払ができる業者を選ぶなどの対策をとることなどが必要とされているのかもしれません。